この記事は「親子で学ぶ金融教育シリーズ 全11話」の第6話です。第5話「お金って、どこへ消えるの?」もあわせてどうぞ。

あー、今月の分、もう使っちゃった。まだ2週間もあるのに

じゃあ、来月まで待つしかないね

えー、待つのやだ
「待つ」というのは、あまり楽しい言葉ではありません。とくに子どもにとっては、がまんと同じ意味に聞こえます。
ところが、同じ「待つ」でも、あるものが1つあるだけで、まったく別の時間に変わります。
それが目標です。今回は、ためる話をします。
貯金には、2つの種類がある
「貯金」とひとことで言いますが、実は役割の違う2つがあります。ここを分けておくと、話がぐっと分かりやすくなります。
| どんな貯金? | 使うとき | 第5話の箱でいうと | |
|---|---|---|---|
| お守りの貯金 | 何かあったときのために、ただ置いておく | 基本は使わない | ⓪ 先取り貯金 |
| 目標の貯金 | ほしいものを買うために、ためていく | 目標に届いたら使う | ②か③をためる |
第5話で「⓪の先取り貯金には手をつけない」と書きました。あれはお守りの貯金のことです。使わないから意味がある。
今回の話は、もうひとつのほう。使うためにためる貯金です。こちらは、ためたら使っていい。むしろ、使うのがゴールです。

この2つを混ぜてしまうと、「せっかくためたのに使うのはもったいない」と動けなくなったり、逆に「お守り」を取りくずしてしまったりします。入れものを分けておくだけで防げます。
なつきちゃんの、6か月
第3話でメモ帳を選んだなつきちゃん。ある日、おでかけの帰りに、お店のウィンドウで足が止まりました。
水色のリュック。星のししゅうが入っていて、ポケットがたくさんついています。

かわいい……! これ、ほしい
値段を見て、固まりました。3,000円。おこづかいは月1,000円です。ぜんぜん足りません。
いつものなつきちゃんなら、ここであきらめていました。
まず、5つの問いかけをしてみた
その前に、第5話でおぼえた5つの問いかけを思い出しました。
| 聞いてみたこと | なつきちゃんの答え |
|---|---|
| 本当に、自分にとって必要? | 今のリュックは小さくなってきた。使う場面はある |
| もっと安いもので、代わりにならない? | 安いのも見た。でも、ポケットの数がぜんぜん違った |
| みんなが持っているから、ほしくなっていない? | だれも持っていない。むしろ自分だけ |
| 人に自慢したいだけじゃない? | ……ちょっとある |
| 見た目だけで、ほしくなっていない? | 見た目は大きい。でも毎日使うものだし |

4番目で、正直に「ちょっとある」と答えたのが、なつきちゃんのいいところです。
ひっかかったのは1つだけ。だから「買ってもいい。ただし、今すぐではなく、ためて買う」と決めました。
ここが大事なところです。5つの問いかけは、あきらめさせるための道具ではありません。「本当にほしいなら、ためて買おう」に進むための道具です。
どうやってためるか、決めた
なつきちゃんの予算は、こうなっていました。
| 箱 | いつもの金額 | リュックのために |
|---|---|---|
| ⓪ 先取り貯金 | 200円 | そのまま(手をつけない) |
| ① 必要なもの | 200円 | そのまま |
| ② 未来の自分のためのもの | 300円 | → 300円をリュック貯金へ |
| ③ 今の自分がよろこぶもの | 300円 | → 200円をリュック貯金へ(のこり100円で楽しむ) |
合わせて、毎月500円。3,000円たまるまで6か月かかります。

⓪には手をつけませんでした。③をゼロにもしませんでした。楽しむ分を100円だけ残したのが、あとで効いてきます。
そのうえで、3つの工夫をしました。
- リュック用の入れものを別にした。ほかのお金と混ぜない
- カレンダーにシールを貼った。500円ためた月に1枚。6枚でゴール
- 写真をとって、貯金箱に貼った。何のためにためているかを忘れないように
6か月のあいだに起きたこと
| 時期 | 気持ち |
|---|---|
| 1か月目 | いちばんつらい。おやつを買う手が止まらない |
| 2か月目 | シールが2枚になった。まだ遠い |
| 3か月目 | 半分。「もう半分きた」と思えるようになる |
| 4か月目 | がまんしている感じが薄れてくる |
| 5か月目 | あと1枚。毎日カレンダーを見るのが楽しい |
| 6か月目 | 3,000円。お店へ |

いちばん苦しいのは最初の1か月です。ここを越えると、あとは坂を下るように楽になります。
そして半分を過ぎたあたりから、待つことが「がまん」ではなく「楽しみ」に変わっていきます。

これ、自分のお金で買ったんだ
買ってもらったリュックと、6か月かけて手に入れたリュック。同じ3,000円のものですが、持ったときの重さがまったく違いました。
目標があると、がまんは「待ち時間」に変わる
ここが、今回いちばん伝えたいところです。
| どんな時間? | 気持ち | |
|---|---|---|
| 目標のないがまん | ただ使えないだけ | つらい。いつまで続くか分からない |
| 目標のあるがまん | ゴールに近づいている時間 | 減っていくのが分かる。むしろ楽しい |

同じ「買わない」でも、中身がまったく違います。貯金がつらいのではなく、目標がないとつらいのです。
だから、子どもに「貯金しなさい」と言ってもうまくいきません。先に必要なのは、「何のために」のほうです。
「ためる → 何か買う」ではなく、「ほしいものを決める → ためる」です。目標が先。ここを逆にすると、たいてい続きません。
どれくらいの期間が、ちょうどいい?
長すぎると挫折します。短すぎると、ためた実感がありません。目安はこのあたりです。
| 期間 | 金額の目安 | たとえば | 向いている年齢 |
|---|---|---|---|
| 1〜3か月 | 1,000〜3,000円 | 本、文房具セット、小さなおもちゃ | はじめての子。低学年 |
| 3か月〜1年 | 3,000〜20,000円 | ゲームソフト、自転車、習いごとの道具 | 中学年〜高学年 |
| 1年以上 | 20,000円〜 | ゲーム機本体、楽器 | 高学年以上。慣れてきてから |

最初は1〜3か月からにしてください。1回でも「ためて買えた」を経験すると、次から自分で長い目標を立てられるようになります。
いきなり1年の目標を立てて、2か月でやめてしまうより、3か月を1回やりきったほうがずっと力になります。
おうちでやってみよう:かいたいものリスト
紙1枚あればできます。書く欄は4つだけです。
- 何がほしい?——できるだけ具体的に。絵や写真を貼ってもいい
- いくら?——お店やネットで、実際の値段を調べる
- 毎月いくらためる?——無理のない金額で
- いつ買える?——カレンダーに丸をつける
リクくんが書いたものが、こちらです。
| 何がほしい? | どうぶつのゲームソフト |
| いくら? | 4,000円 |
| 毎月いくら? | 500円 |
| いつ買える? | 8か月後 → 来年の夏休み |


8か月は長いけど、夏休みに新しいゲームで遊べると思うとワクワクする
「8か月は長いけど」と言いながら、もうその日を楽しみにしている。この状態になったら、貯金はもう半分成功しています。
続けるための、3つのコツ
1. 見えるようにする
これがいちばん効きます。中身の見える貯金箱、カレンダーのシール、あと何円かを書いた紙。増えていくのが目に入ると、続きます。
2. 家族が知っている
ひとりで黙ってためるのは、大人でもきついものです。週に1回「今いくら?」と聞くだけで十分。見ていてくれる人がいる、というだけで変わります。
3. ゼロにしない
なつきちゃんが③に100円残したのは、これです。楽しむお金をゼロにすると、続きません。少しでいいので手元に残してください。
親が足してあげて、早くゴールさせない。「がんばってるから、残りは出してあげる」は、いちばん効いている部分を消してしまいます。時間がかかったこと自体に価値があります。
ためると、お金以外にも手に入るもの
6か月ためた子が手に入れたのは、3,000円のリュックだけではありません。
- 計画する力——ゴールから逆算して、今月やることを決められる
- 待てる力——今の「ほしい」を、少しだけ横に置いておける
- やりきった経験——「自分は続けられる」という感覚
- ものの重み——3,000円がどれくらいの時間なのかを、体で知っている
- 選ぶ力——6か月かけてほしいものかどうかを、自分に問える

いちばん大きいのは4つめだと思っています。ためた経験があると、値札が「時間」に見えるようになります。3,000円は、なつきちゃんにとって「6か月」です。
この感覚がある人は、大人になってからも、無理な買い物をしにくくなります。
保護者の方へ
「貯金しなさい」は効かない
目的のない貯金は、大人でも続きません。まず「何がほしい?」から入ってください。金額の話は、そのあとです。
最初の目標は、小さく
1〜3か月で届くものにしてください。1回成功すると、次は自分から長い目標を立てはじめます。逆に1回失敗すると、しばらくやりたがりません。
目標が変わってもいい
3か月ためたあとで「やっぱり別のものにする」と言い出すことがあります。それも成功です。3か月待てたという事実は変わりませんし、待ったからこそ気持ちが変わったと分かったのです。
お金以外の貯金も見せる
「毎日10分の練習を半年続けたら、こうなった」も、ためる力の話です。お金だけの話にしないほうが、子どもには伝わります。
買えた日ではなく、途中の1か月ごとをほめてください。「今月も続いたね」。ゴールだけをほめると、届かなかったときに何も残りません。
まとめ
- 貯金には2種類ある。使わない「お守りの貯金」(⓪)と、使うためにためる「目標の貯金」(②③)
- 5つの問いかけは、あきらめさせる道具ではない。「ためて買おう」に進むための道具
- いちばん苦しいのは最初の1か月。半分を越えると、待つのが楽しくなる
- 貯金がつらいのではなく、目標がないとつらい。「ほしいものを決める → ためる」の順番で
- 最初の目標は1〜3か月で届くものに。1回やりきると、次は自分で長い目標を立てられる
- 楽しむお金をゼロにしない。親が足してゴールを早めない
- ためた経験があると、値札が「時間」に見えるようになる
あとがき:70万円のホイールと、大破した車
正直に書きます。私は、ためること自体はわりと得意でした。
はじめて10万円たまったときは、通帳を見て「やった」と声が出ました。ところがその直後、車のラジエーターが壊れて7万円。ほとんど消えました。
がっかりはしましたが、あのとき払えたことのほうが大きかったと、今は思います。あれがお守りの貯金でした。
問題はそのあとです。
当時はスポーツカーに乗っていて、貯金が100万円近くになったころ、カーイベントに行きました。そこで言われたのです。「このホイールとマフラー、今だけこの値段ですよ」。
見た目が良くなった自分の車を想像して、その場で約70万円。一括で払いました。
数か月後、その車は事故で大破します。
「あと少し買うのが遅ければ……」と、しばらく笑えませんでした。今では笑い話にしていますが。
あのときの自分に第5話の5つの問いかけをさせたら、どうだったでしょう。「もっと安いもので代わりにならない?」「見た目だけで、ほしくなっていない?」——間違いなく、2つは引っかかっていました。
ただ、それでも思うことがあります。
あの70万円が払えたのは、ためていたからです。使い方は下手でしたが、ためる力がなければ、そもそも選ぶことすらできませんでした。
楽しむためにお金を使うにも、まずためる力がいります。順番はいつもこれです。ためて、選んで、使う。
だからこそ、小さくていいので、先に取るクセをつけておいてほしいと思っています。残ったお金でやりくりしているうちに、扱い方は自然と上手くなっていきます。
6か月かけて3,000円をためた子は、たぶん、私よりずっと上手に70万円を使えます。
次回は第7話「お金がふえるって、どういうこと?」。ためたお金が、はたらいてくれる話です。

