この記事は「親子で学ぶ金融教育シリーズ 全11話」の第5話です。第4話「おこづかいは何のためにあるの?」もあわせてどうぞ。

今月はちゃんとメモしたよ。……でも、やっぱり月末はお金なかった

書いてたのに?

うん。書いてはいたんだけど、気づいたら減ってた
前回、使ったお金を書いてみる話をしました。書けば、何にいくら使ったかは見えるようになります。
ただ、記録は「使ったあと」に書くものです。だから、使いすぎたことも「あとから」分かります。それでは間に合わない場面があります。
今回は、その一歩手前の話です。使う前に、決めてしまう。それが予算です。
3か月目、リクくんはまた足りなくなった
前回、ミニ家計簿をつけはじめたリクくん。2か月目はうまくいきました。ところが3か月目、また月末にお金がなくなってしまいます。
家計簿は、ちゃんとつけていました。ノートにはこう書いてありました。
| 使ったもの | 金額 | そのときの気持ち |
|---|---|---|
| ガム | 100円 | のどがかわいたから |
| ゲームのアイテム | 300円 | 友だちが持っていて、ほしくなった |
| お菓子 | 200円 | お店で見かけて、おいしそうだった |
| ガチャガチャ | 300円 | 新しいシリーズが出ていたから3回 |
| 合計 | 900円 |

ちょっとずつしか使ってないのに、なんで?
のこりは100円。貯金には、1円も回せませんでした。

「ちょっとだけ」は、積み上がる
ひとつずつ見ると、どれも大きな買い物ではありません。100円、300円、200円、300円。そのときは「ちょっとだけ」のつもりです。
でも、100円を9回使えば900円です。金額の大きさではなく、回数で消えていきます。ここが、お金がなくなるときの正体です。
書いていたのに、なぜ防げなかったのか
リクくんは記録をサボったわけではありません。それでも止まらなかったのは、記録が「使ったあと」の作業だからです。
| いつやる? | できること | |
|---|---|---|
| 記録(第4話) | 使ったあと | 何に使ったかを知る。クセが分かる |
| 予算(今回) | 使う前 | 使いすぎを、その場で止める |

記録と予算は、どちらかではなくセットです。予算がないと記録は反省で終わり、記録がないと予算は立てられません。
予算とは、使う前に決めた「使い道の地図」
そんなリクくんに、同じクラスのなつきちゃんが声をかけました。

使う前に、どこにいくら使うか決めておくといいよ。わたしはそうしてる
これが予算です。むずかしく言えば計画ですが、感覚としては地図に近いものです。
地図がないと、行き当たりばったりで歩くことになります。歩いた道はあとから思い出せても、そのときは「今どこにいるのか」が分かりません。予算があると、使いながら「あと、いくら使えるか」が見えます。
予算は、4つの箱に分ける
おこづかいを、4つの箱に入れていきます。大事なのは上から順番に入れることです。
| 順番 | 箱の名前 | どんなお金? | たとえば |
|---|---|---|---|
| ⓪ | 先取り貯金 | 使わずに、先によけておく | いざというとき、大きな目標のため |
| ① | 必要なもの | ないと困る | ノート、えんぴつ、学校で使うもの |
| ② | 未来の自分のためのもの | これからの自分の、できることが増える | 本、図鑑、工作の材料、習いごとの道具 |
| ③ | 今の自分がよろこぶもの | 今の気持ちが満たされる | おやつ、ガチャ、まんが |

②と③は、どちらも「なくても困らないもの」です。でも役割がまったく違います。②は未来の自分に効いてきて、③は今の自分に効きます。ここを分けておくのが、今回のいちばんのポイントです。
先取りは、1〜2割がちょうどいい
⓪をいくらにするか。答えは1〜2割です。
| 先取りする割合 | 毎月(1,000円のうち) | 1年でたまる額 | やってみた感じ |
|---|---|---|---|
| 1割 | 100円 | 1,200円 | ほとんど痛くない。まずはここから |
| 2割 | 200円 | 2,400円 | 少し意識する。ここが目安 |
| 3割以上 | 300円〜 | 3,600円〜 | 窮屈になって、続きにくい |

もっと貯めたくなるかもしれませんが、続かない額を決めても意味がありません。3割を1か月がんばって、翌月に反動でぜんぶ使ってしまうより、1割を12か月続けたほうが確実に残ります。
リクくんが立てた予算
| 箱 | 金額 | 中身 |
|---|---|---|
| ⓪ 先取り貯金 | 200円 | 手をつけない |
| ① 必要なもの | 200円 | ノート、えんぴつ |
| ② 未来の自分のためのもの | 300円 | 工作の材料、図鑑 |
| ③ 今の自分がよろこぶもの | 300円 | おやつ、ガチャ |
| 合計 | 1,000円 |
⓪と①は決まってしまう。本番は②と③
ここが、今回いちばん伝えたいところです。
4つの箱のうち、⓪と①はあまり動かせません。
⓪は「1〜2割」と、先に自分で決めてしまいました。①は、ノートが切れたら買うしかありません。買うか買わないかを選べないので、金額もだいたい決まってしまいます。
リクくんの場合、⓪と①で400円。動かせるのは、のこりの600円です。

そして、この600円を②と③にどう配るか。ここが予算づくりの本番です。
- ②を厚くすると——できることが増えていく。半年後の自分が変わる
- ③を厚くすると——毎日が楽しい。今がうれしい
どちらが正解ということはありません。月によって変えてもかまいません。
ただ、⓪と①を決めただけで終わりにしないでください。のこりを「なんとなく」にしてしまうと、結局は3か月目のリクくんに戻ります。
大人の家計もまったく同じです。先取りと、家賃や光熱費のような毎月決まって出ていくお金。そこを決めたあとが本番です。のこりをどう配るかで、暮らしの色が変わります。
③は「削る箱」でも「好きに使っていい箱」でもない
「今の自分がよろこぶもの」は、いちばん最初に削られがちな箱です。おやつ、ガチャ、まんが。大人でいえば、外食やちょっとした贅沢がここに入ります。
でも、ここは削るところではないと思っています。
計画して楽しむからこそ、毎日は華やかになります。我慢だけの予算は続きませんし、そもそも何のためにお金を管理しているのか分からなくなってしまいます。
問題は「使うこと」ではなく「決めずに使うこと」
| 同じ300円でも | あとに残るもの |
|---|---|
| 決めて使った300円 | 満足が残る。「使ってよかった」と思える |
| 決めずに使った300円 | 何に使ったか、覚えてもいない |

ただし、③は放っておくとふくらむ
ここが、もうひとつ大事なところです。
③はいちばん気持ちよく使える箱です。だからこそ、放っておくといくらでもふくらみます。
ほしい気持ちのままに③を厚くしていくと、まず②がやせます。それでも足りなくなると、やがて⓪や①にまで手がのびます。そうなると「お金が足りない」が当たり前の状態になってしまう。今が楽しいだけで、先には何も残りません。
③は楽しむための箱です。ただし、欲しいままに広げていい箱ではありません。
③を買うときの、5つの問いかけ
だから、③を買うと決めたときは、いちど立ち止まってください。聞くのはこの5つです。
| 聞いてみること | あてはまったら |
|---|---|
| 本当に、自分にとって必要? | 「あったらいいな」レベルなら、来月でもいい |
| もっと安いもので、代わりにならない? | 同じ満足が、他の安い物でも得れる場合がある |
| みんなが持っているから、ほしくなっていない? | それは自分の「ほしい」ではなく、まわりの「ほしい」 |
| 人に自慢したいだけじゃない? | 自慢できる時間は数日。値段のわりに、とても短い |
| 見た目だけで、ほしくなっていない? | 使っている場面が浮かばないなら、たぶん使わない |

3つ以上「そうかも」と思ったら、その日は買わない。それだけで、あとで後悔する買い物はぐっと減ります。
第3話にも4つの質問がありました。あちらはどれを選ぶかを決めるためのもの。今回の5つは、その「ほしい」が本当に自分のものかを確かめるためのものです。
とくに3番と4番です。まわりに合わせた買い物と、見栄のための買い物。この2つは金額が大きくなりやすいぶん、家計への効き方も大きくなります。
予算は、使わないための道具ではありません。気持ちよく使うための道具です。③の枠の中で、5つの問いかけを通ったものなら、うしろめたさなしに使っていい。そのために、先に決めておくのです。
第3話・第4話と、どうつながっているか
ここまでの回で出てきた分け方と、今回の4つの箱の対応です。
| 第3話 | 第4話 | 今回(第5話) |
|---|---|---|
| — | 将来のための支出(貯金) | ⓪ 先取り貯金 |
| 必要なもの | 必要な支出 | ① 必要なもの |
| 毎日を豊かにするもの | 楽しむ支出 | ② 未来の自分のためのもの |
| 欲しいもの | 楽しむ支出(同じ箱だった) | ③ 今の自分がよろこぶもの |
第4話では「楽しむ支出」とひとまとめにしていました。今回、そこを②と③に分けました。同じ「楽しむ」でも、未来の自分に効くお金と、今の気持ちに効くお金は、役割が違うからです。
「欲しいもの」という言い方は、やめました
第3話では、3つめを「欲しいもの」と呼びました。ただ、あとから読み返すと、この呼び方は少し分かりにくかったと思っています。
必要なものだって、欲しいのです。「欲しい」は4つの箱ぜんぶにかかってしまう言葉でした。
だから今回からは「今の自分がよろこぶもの」と呼びます。中身は第3話と同じです。見た瞬間に気持ちが動くもの、その場が楽しくなるもの。名前が変わっただけで、悪者ではないという扱いも変わりません。
ほしいものが出てきたら、どの箱?
予算を立てたあとで「これがほしい」が出てくることがあります。そのときは、どの箱に入るかを考えてみてください。
箱が決まれば、どこからお金を出すかも決まります。
| どの箱? | 見分け方 | どこから出す? |
|---|---|---|
| ① 必要なもの | ないと困る。学校で使う | ①の箱から。すぐ買っていい |
| ② 未来の自分のためのもの | 長く使う。好きなことにつながる。できることが増える | ②の箱をためる。何か月かかっても⓪には手をつけない |
| ③ 今の自分がよろこぶもの | 見た瞬間に気持ちが動いた | ③の箱の中で。迷ったら1週間おく |

この考え方が効くのは、「買う・買わない」ではなく「どこから出すか」の話に変わるからです。頭ごなしに止められるより、子どもも納得しやすくなります。
いちばん揺れるのは③です。ここは1週間おいてから決めるのをおすすめします。1週間たっても同じくらいほしければ、それは本物です。1週間おくと、半分くらいは忘れてしまいます。
⓪の先取り貯金には手をつけない。ここを一度くずすと、次からもくずせるようになります。ほしいものは、②か③の箱をためて買う。この順番だけは変えないでください。
箱ごとに、ルールをひとつだけ
分けただけだと、月のはじめに使い切ってしまうことがあります。そこで、箱ごとに簡単なルールを足します。
| 箱 | ルールの例 |
|---|---|
| ⓪ 先取り貯金 | 使わない。目標額が決まったら紙に書いて貯金箱に貼る |
| ① 必要なもの | 買う前に「本当にもうないか」を確かめる |
| ② 未来の自分のためのもの | 使い切らなくていい。来月にくり越してためる |
| ③ 今の自分がよろこぶもの | ガチャは月に2回までなどしっかりと使う金額は決めておく。 迷ったら買う前に5つの問いかけをする |
②だけ、少し性格が違います。この箱は、使い切らずにためてもいい箱です。3か月ためれば900円。今まで買えなかったものが、手に届くようになります。
ルールは、子ども自身に決めてもらってください。親が決めたルールは守られませんが、自分で言ったルールは意外と守ります。
記録のつけ方が、少し変わる
予算を立てたら、家計簿の書き方もひとつ変わります。第4話では「使ったもの」を書きました。予算があるなら、そこに「箱の残り」を足します。
| 日付 | 何に使った | いくら | 箱 | その箱の残り |
|---|---|---|---|---|
| 5日 | ガチャ | 200円 | ③ | 100円 |
| 9日 | ノート | 150円 | ① | 50円 |
| 12日 | 図鑑をためる | 0円 | ② | 300円 |
右はしの「残り」の列があるだけで、次に使うときの判断が変わります。買おうとしたときにノートを開けば、その箱にあといくら残っているかが、その場ですぐ分かるからです。
おうちでやってみよう:わたしの使いみちプラン
紙1枚でできます。月のはじめに5分あれば十分です。
ステップ1 ⓪先取りする額を決める
おこづかいの1〜2割。まずは1割からで大丈夫です。決めたらその場でよけて、別の入れものに移します。
ステップ2 ①必要なものを見積もる
今月なにが要りそうか、一緒に考えます。ノートがそろそろ切れる、絵の具を買い足す。ここは相談してかまいません。
ステップ3 のこりを②と③に配る
ここは子どもに決めさせてください。今月は②を多めにする? それとも③? 迷っている時間そのものが、いちばんの練習になります。
ステップ4 箱ごとにルールをひとつ決める
たくさん作らないこと。箱ごとに1つだけにしてください。多いと覚えられず、結局どれも守られません。
月末に、ふりかえる
- 予定どおりに使えた箱は、どれ?
- 足りなくなった箱は、どれ?
- ⓪の先取り分は、ちゃんと残ってる?
- 来月、②と③の配分を変えたい?
予算は、一度決めたら終わりではありません。毎月ちょっとずつ直していくものです。足りない箱が出たら、来月は増やせばいい。それも立派な判断です。
予算があると、何が変わるのか
- 「なんとなく買い」が減る。残りが見えているので、その場で立ち止まれる
- 迷う時間が減る。箱の中なら買っていいと決まっているので、悩まずに済む
- 使うときに、うしろめたさがなくなる。ここは使っていいお金だと分かっている
- 確実にお金が残る。先に取っているから、意志の強さに左右されない
- ためた先に、届くものが出てくる。②の箱が、それを教えてくれる
「使うときに、うしろめたさがなくなる」。意外に大きいのがこれです。予算は我慢のための道具に見えますが、実際に使ってみると「安心して使うための道具」だと分かってきます。
保護者の方へ
4つの箱は、大人の家計とそのまま同じ
記事では子どもに分かる言葉で書きましたが、この4つは大人の家計で使われる考え方と同じものです。
| 記事での呼び方 | 大人の言葉 | 大人の家計だと |
|---|---|---|
| ⓪ 先取り貯金 | 貯蓄 | 給料日に別口座へ移す分 |
| ① 必要なもの | 消費 | 食費、家賃、光熱費 |
| ② 未来の自分のためのもの | 投資 | 本、学び直し、健康、資産形成 |
| ③ 今の自分がよろこぶもの | 浪費 | 外食、趣味、ちょっとした贅沢 |
「浪費」という言葉は響きが悪いのですが、浪費そのものが悪いわけではありません。計画して楽しむ浪費は、人生を彩ってくれます。悪いのは、決めずに使ってしまうことのほうです。
そして家計の本番は、⓪と①を確定させたあとにあります。のこりをどれだけ②と③に回せるか。ここが、暮らしの豊かさを決めていく部分だと思っています。
はじめは大まかで十分
「おやつに200円まで」くらいの感覚でかまいません。細かく分けるほど守れなくなります。箱は4つまで。
②と③の配分は、口を出さない
⓪の割合だけ「1〜2割ね」と伝えて、②と③の配り方は任せてしまってください。③が多すぎると感じても、言うのは月末のふりかえりまで待ちます。
守れなかったときこそ、聞くだけにする
「守れなかったね」ではなく「どう感じた?」「来月はどうする?」。予算をはみ出した経験そのものが、次の予算の材料になります。
予算を守れたかどうかより、予算を立てたこと自体をほめてください。使う前に考えた、という事実がすでに前進です。
まとめ
- お金は金額の大きさではなく、回数で消えていく。100円が9回で900円
- 記録は「使ったあと」、予算は「使う前」。2つでセット
- 予算は4つの箱。⓪先取り貯金 → ①必要なもの → ②未来の自分のためのもの → ③今の自分がよろこぶもの
- 先取りは1〜2割。続かない額を決めても意味がない
- ⓪と①はあまり動かせない。のこりを②と③にどう配るかが本番
- ③は削るところではない。計画して楽しむからこそ、毎日は華やかになる
- ただし、欲しいままに広げると②がやせ、やがて⓪①まで削ることになる
- ③を買う前に5つの問いかけ。その「ほしい」は、本当に自分のもの?
- 悪いのは使うことではなく、決めずに使うこと
- ⓪には手をつけない。ほしいものは②か③をためて買う
あとがき:給料が消えていった、社会人1年目
「お金、どこいった?」——これは、社会人になりたてのころに本気で思いました。
はじめての給料が振り込まれたときは、口座の数字を見てうれしくなったのを覚えています。ところが家賃が引かれ、駐車場代とガソリン代が出ていき、携帯代が落ちて。月末には「来月使えるのは、これだけ?」と現実に戻されました。
学生のころ、どれだけ親に助けられていたのか。あのとき初めて実感しました。
その私が、ひとつだけ守っていたことがあります。親に言われた「社会人になったら、少しでも貯金しなさい」です。
ふだん使う口座とは別に、貯金用の通帳を作りました。支出の計画なんてまるでありませんでしたが、貯金だけは先に取ってちょこちょこ移していました。
それが、車が壊れたときに効きました。ほかは何ひとつ計画的ではなかったのに、そこだけは自分を助けてくれた。
だから、家計簿が面倒だという方にも、これだけは言いたいのです。支出がザルでも、先に取る仕組みさえ作っておけば、お金は残ります。
そして不思議なもので、残高が増えてくると「もう少しちゃんとやってみようかな」と思えてきます。管理する自信は、あとからついてきました。
今になって思うのは、あのころ足りなかったのは我慢ではなく、②と③を分けて考える発想だったということです。⓪さえ先に決めてしまえば、あとは安心して使えたはずでした。
子どもにとっての1〜2割は、たった100円か200円です。それでも、順番を変えるという経験は同じです。
次回は第6話「ためるって、すごい」。先取りしたお金が、どんなふうに力になるかの話です。

