この記事は「親子で学ぶ金融教育シリーズ 全11話」の第4話です。第3話「「欲しい」と「必要」はどう違う?」もあわせてどうぞ。

おこづかい、こないだもらったばっかりなのに、もうない……

え、もう? 何に使ったの?

えーっと……おぼえてない
使ったことは覚えているのに、何に使ったかは思い出せない。これは子どもだけの話ではありません。大人でも、財布の中身が減っている理由をきちんと説明できることは、案外少ないものです。
前回は「選ぶ力」の話でした。今回は、選んだあとの話です。使ったお金がどこへ行ったのかを、自分の目で見えるようにする。おこづかいは、そのための小さな練習場になります。
おこづかいは「お金の練習場」
おこづかいは、子どもが好きなものを買うためのお金——そう思われがちですが、本当の役割は別のところにあります。
自分で決めて、自分で使って、その結果を自分で引き受ける。この一連の経験ができる場所は、子どもの生活の中でおこづかいくらいしかありません。
だから、金額が多いか少ないかよりも、この練習ができているかどうかのほうが、ずっと大事です。
金額は、それぞれのご家庭の事情で決めて大丈夫です。大切なのは「自分で決めて使う機会がある」ということのほうです。
収入と支出って、なに?
家計の話は、この2つの言葉さえ分かれば入っていけます。
| どんなお金? | 子どもの場合 | 大人の場合 | |
|---|---|---|---|
| 収入 | 入ってくるお金 | おこづかい、お年玉、お手伝い代 | 給料、ボーナス |
| 支出 | 出ていくお金 | お菓子、文房具、ゲーム | 食費、家賃、光熱費 |

そして、家計のいちばん基本のルールは、たった1つです。
収入 ≧ 支出。入ってくるお金より、出ていくお金のほうが少ない。基本はこれだけです。
大人の家計もまったく同じで、この式が崩れると借金になります。おこづかいという小さな金額で先に体験しておくと、あとがずいぶん楽になります。
支出には、3つの種類がある
出ていくお金を、ざっくり3つに分けてみます。第3話で見た「欲しい」「必要」「毎日を豊かにするもの」の分け方と、実はつながっています。
| 種類 | どんなもの | たとえば |
|---|---|---|
| 必要な支出 | なくて困るもの | ノート、えんぴつ、学校で使うもの |
| 楽しむ支出 | あると毎日がうれしくなるもの | お菓子、まんが、ゲーム |
| 将来のための支出(貯金) | 今は使わずにとっておくお金 | ほしいゲームソフトのため、いざというときのため |

ここでのポイントは、3つめの「貯金」を支出の仲間に入れていることです。
余ったら貯める、ではなく、はじめから「貯金に使う」と決めておく。この順番を変えるだけで、貯まり方はまったく変わります。大人の世界では「先取り貯蓄」と呼ばれる考え方です。
リクくんのミニ家計簿:1か月目
第2話でりんごジュース屋さんを開いた、小学4年生のリクくん。毎月1,000円のおこづかいをもらっています。

あれ? まだ月の半ばなのに、もうお金がないぞ……

何に使ったか、覚えてる?
覚えていませんでした。そこでお母さんが、ノートを1冊わたします。「使ったら、その日のうちに書いてみたら?」
1か月書いてみた結果が、これです。
| 項目 | 金額 | 種類 |
|---|---|---|
| おこづかい | +1,000円 | 収入 |
| ゲームのガチャ | −300円 | 楽しむ |
| お菓子 | −400円 | 楽しむ |
| まんが | −200円 | 楽しむ |
| ノート | −200円 | 必要 |
| のこり | −100円 |
足りなくなった100円は、お母さんから借りました。
書いてみて、はじめて見えたこと
使ったお金を、さっきの3つの種類でまとめ直してみます。
| 種類 | 金額 | ぜんぶに対する割合 |
|---|---|---|
| 楽しむ支出 | 900円 | 約82% |
| 必要な支出 | 200円 | 約18% |
| 貯金 | 0円 | 0% |


楽しむものだけで900円……そんなに使ってたんだ
リクくんは、使いすぎを注意されたわけではありません。自分で書いて、自分で気づきました。
ここが記録のいちばんの効果です。親に言われると反発しますが、自分の字で書いた数字には反論できません。
2か月目、リクくんが変えたこと
次の月、リクくんは使う前に計画を立ててみることにしました。
| 項目 | 金額 | 種類 |
|---|---|---|
| おこづかい | +1,000円 | 収入 |
| 貯金(先によけた) | −300円 | 将来のため |
| 文房具 | −300円 | 必要 |
| お菓子 | −200円 | 楽しむ |
| ゲームのガチャ | −200円 | 楽しむ |
| のこり | 0円 |

変えたのは、3つだけです。
- 先に300円を貯金によけた。残ったぶんで1か月をやりくりすると決めた
- ガチャは「月に1回だけ」とルールを決めた
- お菓子を半分にした。そのぶん、文房具に少しいいものを買った

今月は計画どおりに使えた! あと2か月ためたら、ほしかったゲームソフトが買える
我慢を増やしたわけではありません。使う順番を変えただけです。それでも、月末に「お金がない」と困ることはなくなりました。
記録すると、なぜ変わるのか
家計簿が効くのは、こういう順番で人が変わっていくからです。
「書く」→「見える」→「考える」→「変わる」

この順番は飛ばせません。書かないと見えないし、見えないと考えようがないからです。逆に言えば、書きさえすれば、あとは半分ひとりでに進みます。
| 時期 | 起きてくること |
|---|---|
| 1週目 | 書くのが面倒。でも「けっこう使ってるな」と気づく |
| 2週目 | 買う前に「これ、必要かな」と一瞬考えるようになる |
| 3週目 | 「今日はやめておこう」が出てくる |
| 4週目 | 月末にお金が残る |
ここで押さえておきたいのは、家計簿の目的は節約ではないということです。
目的は、自分がどこにお金を使う人なのかを知ること。それさえ分かれば、どこを削るかは自分で決められます。削り方を人に決めてもらう必要はありません。
おこづかいの渡し方は、3つある
「いくら渡すか」で悩む方は多いのですが、実は「どう渡すか」のほうが、身につくものが変わります。
| 渡し方 | やり方 | 身につくこと | 気をつけたいこと |
|---|---|---|---|
| 定額制 | 毎月きまった額を渡す | 限られたお金でやりくりする力 | 「何もしなくてもお金は入ってくる」になりやすい |
| 報酬制 | お手伝いをしたぶんだけ渡す | 働くとお金が入る、という感覚 | 「お金をくれないならやらない」になりやすい |
| 併用型 | 基本は定額。特別な仕事だけ報酬 | その両方 | 線引きを決めておかないと曖昧になる |

おすすめは併用型です。
第2話で「お金は、だれかのありがとうが形を変えたもの」という話をしました。定額制だけだと、そこがつながりません。かといって全部を報酬制にすると、家族の中の当たり前の助け合いにまで値段がついてしまいます。
線引きの例:自分のことは、お金にしない(食器を下げる、部屋を片づける、宿題をする)。家族みんなのための特別な仕事は、報酬にする(窓ふき、車の洗車、庭の草とり)。この分け方がいちばん揉めにくいです。
足りなくなったら、どうする?
リクくんは1か月目に100円借りました。この「借りる」をどう扱うかで、学べるものが変わります。
いちばんもったいないのは、何も言わずに足してあげることです。それだと「足りなくなっても、だれかがなんとかしてくれる」という経験だけが残ります。
ここは、はっきり書いておきます。私自身は、借金には賛成できません。大人になってからも、借りずに済むならそれに越したことはないと思っています。ですから基本は「足りなかったら、貯まるまで待つ」でいいと考えています。
そのうえで、それでも一度は経験しておく価値がある、とも思っています。大人の世界には「借りたら、利息をつけて返す」というルールがあるからです。これは言葉で教わるより、一度自分の財布で味わったほうが早く分かります。
もし貸すなら、大人と同じ条件にしてみてください。
- 返す日を決める。来月のおこづかいから返す
- 利息をつける。100円借りたら、返すのは110円
- 何に使って足りなくなったのかを、いっしょに見る
- 返し終わるまでは、新しく借りられない
たった10円多く返すだけのことですが、子どもには「借りると、そのぶん損をする」とはっきり伝わります。大人の世界のクレジットカードの分割払いや、お金を借りるサービスの利息は、これが何倍にもふくらんだものです。
借りたお金は、必ず未来の自分の財布から出ていく。しかも、借りた額より多く出ていく。この感覚を小学生のうちに100円で味わっておけると、大人になってからがずいぶん違います。
「一切貸さない」という方針でも、まったく問題ありません。ただその場の気分で変えないことだけは決めておいてください。ルールが揺れると、子どもは「ねばれば何とかなる」と学んでしまいます。
おうちでやってみよう:ミニ家計簿3ステップ
ノート1冊で始められます。アプリも表計算ソフトもいりません。

ステップ1 入ってきたお金を書く
月のはじめに、おこづかいの額をいちばん上に書きます。お年玉やお手伝い代が入ったら、その日に足していきます。
ステップ2 使ったら、その日のうちに書く
書くのは4つだけです。日付/何に使ったか/いくら/どの種類か(必要・楽しむ・貯金)。
レシートをもらったら、貼るだけでもかまいません。字を書くのが負担な年齢なら、それで十分です。
コツは「その日のうち」だけです。翌日になると、もう思い出せません。大人の家計簿が続かない理由も、たいていここにあります。
ステップ3 月末に、いっしょに見る
のこりはいくらか。何にいちばん使ったか。確認するのはこの2つで十分です。
そのうえで、こんなふうに聞いてみてください。
- いちばん「買ってよかった」と思うのは、どれ?
- ちょっともったいなかったかも、と思うのは?
- 来月は、どうしたい?
もう少し踏みこむなら、こちらです。
- 足りなくなったのは、どこが原因だったと思う?
- 同じ1,000円で、もっとうれしい使い方はあったかな?
- 3か月ためたら、何が買えそう?
家計簿を見て叱らないでください。一度でも叱られると、子どもは書かなくなるか、正直に書かなくなります。記録は、責めるための道具ではありません。
親子ゲーム:「家計簿マスター」
実際のお金を使わなくても遊べます。おこづかいをまだ渡していないご家庭でも大丈夫です。
準備するもの
- 紙とえんぴつ
- 架空のおこづかい1,000円
- ほしいものリスト(値段つきで5個くらい)
遊び方
- 1か月を4週に分けて進めます
- 1週ごとに、親が「できごとカード」を1枚出します
- 子どもは、どうするかを決めて家計簿に書きます
- 月末にのこりを数えて、ふりかえります
| できごとカードの例 | 金額 |
|---|---|
| 友だちの誕生日プレゼントを買う | −300円 |
| ノートを使い切ってしまった | −200円 |
| 期間限定のガチャがある | −500円 |
| 遠足のおやつ代がいる | −300円 |
| お手伝いをして臨時収入 | +200円 |
慣れてきたら、少しずつ難しくしていけます。
- レベル2:お手伝いで収入を増やせるようにする
- レベル3:「3か月で1,500円ためる」など、目標をつける
勝ち負けはつけません。使い切った子も、ためた子も、理由を言えたらそれで成功です。
年齢別・家計簿のつけ方
| 年齢 | やり方 | 書くこと |
|---|---|---|
| 5〜7歳 | 親が横で一緒に書く。絵やシールでもOK | 使った・使わなかった/楽しかったかどうか |
| 8〜10歳 | 自分で書く。週に1回ふりかえる | 金額と、3つの種類(必要・楽しむ・貯金)の仕分け |
| 11〜12歳 | 月のはじめに予算を立て、月末に答え合わせ | 予算と実際の差/貯金の目標 |

大事なのは、背伸びさせないことです。シールを貼るだけで精一杯の子に、いきなり予算立てを求めても続きません。ひとつ下のレベルから始めて、物足りなさそうなら上げる。それくらいでちょうどいいです。
保護者の方へ
金額より、使い方
いくら渡すかで悩みがちですが、身につくかどうかは金額では決まりません。500円でも、自分で決めて使っていれば立派な練習になります。
完璧を求めない
毎日きっちり書けなくて当たり前です。週に3日書けたら上出来だと思ってください。正確さより、続いていることのほうがずっと価値があります。
教えるより、気づかせる
「使いすぎ」と言うかわりに、「今月いちばん使ったのは何だった?」と聞いてみてください。数字は目の前にあるので、答えは子どもが自分で見つけます。
大人の家計簿を、少しだけ見せる
これは効きます。「うちは食べるものにこれくらい使っていて、ここは毎月決まって出ていくお金なんだよ」と、見せられる範囲で見せてみてください。家計簿は特別なものではなく、大人も普通にやっていることだと伝わります。
お金が残ったかどうかではなく、書けたことをほめてください。「よく続けたね」「自分で気づいたのがすごいね」。この一言が、来月も書く力になります。
まとめ
- おこづかいは、自分だけの小さな家計。将来の練習場になる
- 収入は入ってくるお金、支出は出ていくお金。基本のルールは「収入 ≧ 支出」だけ
- 支出は「必要」「楽しむ」「将来のため(貯金)」の3つに分けられる
- 貯金は余ったらするものではなく、はじめによけておくもの
- 「書く」→「見える」→「考える」→「変わる」。書かないと、この順番は始まらない
- 借りたお金は、借りた額より多くなって未来の自分から出ていく。だから、基本は借りない
- 家計簿は責めるための道具ではない。書けたこと自体をほめる
あとがき:大人になってから始めるほうが、ずっと大変
正直に言うと、私自身は小学生のころ、家計簿なんてつけたことがありませんでした。
始めたのは大人になってからです。これがなかなか続きませんでした。最初は自分で作った表計算のシートで、「この支出はどのカテゴリだろう」といちいち悩む。そこで力尽きる。何度かそれを繰り返しました。
今は家計簿アプリを使っていて、月に1〜2回ながめる程度です。慣れてしまえば、たいした手間ではありませんでした。続かなかったのは意志が弱かったからではなく、やり方が重すぎただけだったんだと思います。
とはいえ、子どもに「家計簿をつけなさい」と言っても、たぶん続きません。おこづかいは金額が小さいので、書くほどのことでもない、と感じてしまうからです。
だからわが家では、代わりに自分の家計簿を、見せられる範囲でちらっと見せるようにしています。「こういうふうに書いて、こんなふうに使ってるよ」と。
「家計簿って、こういうものなんだ」。小学生のうちは、そのくらいのふんわりした感覚で十分だと思っています。
家計簿は、将来の自分を助けてくれる実用的なスキルです。今は「なんとなく知っている」で構いません。いつか自分で必要だと思ったときに、抵抗なく始められる。それだけで、ずいぶん違うはずです。
次回は第5話「お金って、どこへ消えるの?」。使う前に決めておく、予算の話です。

